【基礎中の基礎!+α】脱脂洗浄について Vol.2~溶剤・炭化水素系洗浄~
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※2023年9月20日に加筆修正致しました。
群馬県高崎市にある(株)三和鍍金の武藤です。
今回は【基礎中の基礎!+α】脱脂洗浄についてご説明させて頂きます。
【基礎中の基礎!+α】脱脂洗浄について Vol.1~めっき工程における水系脱脂洗浄~
とは違った視点から脱脂洗浄についてお話していきます。
Vol.1ではめっき工程中における脱脂処理のお話をさせて頂きましたが
今回の記事は溶剤系洗浄、炭化水素系洗浄についてです。
皆さんも耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
「めっきはいらないけど脱脂洗浄だけしてもらいたい」「油分を除去して客先に納品したい」
「どうしてもめっきや塗装工程中の脱脂工程ではこの油がとりきれなくて不良になる」
こんな時に今回お話する溶剤洗浄や炭化水素洗浄の出番です。
そんなご経験がある方は必見です!!
洗浄で何を落とすの?
皆さん、汚れを洗浄するというと
手についた汚れを洗ったり、お風呂の際に髪の汚れを落としたり、身体についた汚れを落としたりと
普段から身近に「汚れの洗浄」をしていますよね。
洗浄というと大げさに聞こえるかもしれませんがこれも一つの洗浄です。
それでは工業系における「洗浄」とは何を指すのでしょうか。
洗浄とは部品の表面を綺麗にすることですが、洗浄によって何かを落としているわけです。
それはズバリ「汚れ」です。
その「汚れ」とはいったい何でしょうか。
我々表面処理業界では金属製品等にめっきや塗装を施しているわけですが
その前加工として製品を加工していますよね。
金属加工時に油分や切削カス、ゴミが付着するわけです。
これこそが「汚れ」です。
汚れを取り除かないと表面処理において不具合につながってしまいます。
汚れの分類
汚れとは「粒子汚れ」「有機汚れ」「無機汚れ」に分類されます。
「粒子汚れ」
名の通り粒子の汚れである、ゴミ、繊維、空気中に浮遊している埃や砂等の汚れです。
塗装した製品に何かブツがある。
なんてことがあるのですがこの粒子汚れが原因であることが多いです。
「有機汚れ」
油分やフラックス、接着剤、離型剤などの有機物から成る汚れです。最も多い汚れになります。
金属製品を加工する際の潤滑油、錆びを防ぐための防錆油もこれに該当します。
「無機汚れ」
金属表面の酸化皮膜や水垢等が該当します。金属表面における付着率が強いのが特徴です。
粒子汚れ、有機汚れ、無機汚れと3種類の汚れの分類を挙げましたが
それぞれに合った洗浄をしないといけないの?と思うかも知れません。
現実的には表面処理業者に持ち込まれる段階では3つの汚れが組み合わさってくることが
ほとんどなので全ての汚れに対応出来る必要があります。
よって表面処理業者はオールマイティーな洗浄技術を求められることが多いのです。
しかしながら、ライン工程内ではどうしても落としきれない汚れ等もございます。
そういった場合は炭化水素系や溶剤洗浄が必要になる場合もあります。
洗浄剤の種類
洗浄剤の種類ですが大きく分けて2種類あります。
1.水系洗浄剤
水系洗浄剤ですが水を溶媒としアルカリ性、酸系、中性のそれぞれの液に
界面活性剤が含まれている洗浄剤になります。
前回のめっき工程中における脱脂処理の中身でお伝えしたものになります。
【基礎中の基礎!+α】脱脂洗浄について Vol.1~めっき工程における水系脱脂洗浄~
めっき工程における前処理で使用されることが多く、表面処理業者では最も身近な洗浄になります。
2.非水系洗浄剤
非水系洗浄剤は炭化水素系や塩素系を用いた洗浄剤になります。
炭化水素系洗浄とは炭素と水から成る化合物で炭化水素を用いた洗浄です。
身近な所で言うと冬場、石油ストーブをお使いの方もいらっしゃると思いますがまさにあの石油、
実は主成分は炭化水素なのです。炭化水素は石油を精製する工程で得ることが出来ます。
対し、塩素系洗浄とは塩化メチレンやトリクロロエチレンを使用する洗浄になります。
強力な洗浄力を有しておりますが環境規制の観点から使用が難しくなっております。
適した洗浄方法
めっき屋さんに持ち込まれるものは3つの汚れが混同しているという話は前述致しましたが
当然、それぞれの汚れに合った洗浄方法はございます。
基本的に付着した汚れを除去するには、素材を考慮し、
対象物に高い除去能力を持つ洗浄剤を選ぶことが大切です。
例えばどんなに洗浄力が高くても素材を溶解してしまったり荒れさせてしまったら大変ですよね。
そこで材質を確認した上で
きつい有機汚れには溶解力の強い非水系洗浄を、無機汚れや粒子汚れには水系洗浄材が適しています。
それぞれオーバースペックにならないようにすることも洗浄でのワンポイントです。
今回の内容とは少し離れてしまうかもしれませんが補足として
通常の洗浄では除去困難な錆び、酸化皮膜を
「ショットブラスト」という工法を用いて除去することも出来ます。
ショットブラストについてはこちらからご覧になって下さい。因みに当社でも取り扱いがあります。
洗浄したらすぐ錆びてしまうのでは?
金属を洗浄したらすぐ錆びてしまった。こんな経験がある方もいらっしゃると思います。
そもそも金属の錆は、水と空気中の酸素によって結合され酸化されたものです。
つまり、錆びない様にする為には水と酸素を遮断すれば良いのです。
洗浄後の錆の対策としては
1.有機溶剤で洗浄する。(水分が無いので錆びにくい)
2.水系洗浄後、しっかりと液切りしてから乾燥させる(水分を遮断する)
3.水系洗浄後、軽度な防錆油を塗布する(防錆皮膜をつくる)
以上の事が挙げられます。
素材によっては洗浄後何もしないとすぐに錆を発生することもあります。
適切な処理を行う事で洗浄状態を保つことが出来るのです。
環境規制による炭化水素系洗浄への移行
近年の環境規制により有機溶剤の使用が難しくなっています。
今まで溶剤洗浄を行って来た処理業者も炭化水素系洗浄への移行が目立ってきております。
これは、クロムメッキの3価クロムと6価クロム。亜鉛メッキのジンケート浴とシアン溶のように
時代に合わせた環境の変化に伴い変更が余儀なくされている流れと同じです。
炭化水素系は引火性があるものの、安全に使用できる技術が確立されており
蒸留再生によりリサイクルが可能で毒性が低い等のメリットが挙げれらます。
対して、塩素系の溶剤洗浄は毒性が強く有毒ガスを発生する恐れがあるので
環境規制に抵触する恐れがあります。
しかしながら、性能としては特段優れているのです。
このように環境規制物質に挙げられるようなものの多くは性能が特段良いと共通点があります。
環境規制の観点からは仕方ない事ですが
代替品として同程度の性能を有していることが求められます。
しかし、なかなか同程度とまではいかない事が多々あるのです。
環境規制の物質を不使用ながら高い品質要求を目指すのは表面処理業の大きなテーマだと言えます。
最後に..
いかがでしたでしょうか。今回は溶剤洗浄についてお話してきました。
今回挙げた以外にも洗浄方法や洗浄液の種類もありますが
表面処理においては身近な洗浄をご紹介しました。
洗浄は表面処理においてはとても重要な点です。
当社でも水系洗浄、非水系洗浄を受け付けておりますので
お気軽にご連絡下さいませ。
今回のコラムでの不明点等もご連絡していただければ
わかる範囲で回答させて頂きますので宜しくお願い致します。
執筆者プロフィール
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株式会社三和鍍金に入社後、経営難に陥っていた会社再建に取り組む。
経費削減、業務改善、人材育成に取り組み1年でV字回復させる。
その後、営業手法の業務改善を行い、売上高増加、年間新規取引100件を達成
柔軟な発想や行動力を持ち味に現在は表面処理を通しての新規事業に着手中。
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