三価クロムや六価クロムの「価」ってなに?
- 公開日:
- 更新日:
皆様、こんにちは。群馬県高崎市にて表面処理を手掛ける、株式会社三和鍍金と申します。
「三価クロムと六価クロムってよく聞くけど、どう違うんだろう?」
「そもそも価って何だろう?うまく言葉にできない…」
そう思う方もいるかもしれません。
「価」とは元素がどれだけ電子を失ったかを示す数値で、三価クロムや六価クロムの違いは、「失った電子の数」にあります。しかし目に見えない現象のため理解しにくい部分があります。
この記事では、以下の内容を解説します。
- 「価」や「イオン化」の意味と「クロムメッキ」のしくみ
- 三価クロムと六価クロムの違いや安全性
- 環境規制と関連法令
化学の知識がなくても理解できるように、簡単なたとえで解説しつつ、三価クロムと六価クロムの違いや安全性、法規制との関係についても具体的に紹介します。
「価」がわかるとメッキ処理についての理解が深まりますので、ぜひ最後まで読んでお役立てください。
三和鍍金ではクロムメッキを含む50種類以上の表面処理を手掛けております。
お見積もりのご相談など、お問い合わせはお気軽にどうぞ!
またYouTubeで各種メッキの解説をおこなっていますので、こちらも是非ご覧ください。
目次
「価」は「ホネ」と「犬の数」で理解しよう

「価」という化学用語は、学校の授業などで聞いたことがあるかもしれませんが、いざ説明しようとすると難しいですよね。
ここでは、「クロム元素」を、「たくさんの犬をリードで連れている人(クロムさん)」のたとえで考えてみましょう。
- クロムさん(=クロム元素「Cr」、原子番号24)は24匹の犬を連れています。普段、犬たちはそれぞれ「ホネ(=電子)」を1本くわえて落ち着いています。クロムさんも安心(=安定)して犬たちを連れています。
- しかし何かの拍子に、ホネ(=電子)を失くしてしまうことがあります。(=イオン化)
- ホネが奪われた犬たちは、お腹が空いて不機嫌になってしまいます。そうなると、たくさんの犬を連れているクロムさんはとても大変です。
このように、ホネ(=電子)を失った数、またホネを失って不機嫌な犬の数を「価」と考えてください。 この考え方で、「イオン化」をさらに詳しく理解しましょう。

「イオン化」とは|刺激の多い環境でホネを失くすこと
イオン化とは、物質が電子を手放してプラスの電荷をもつこと、または電子を取り込んでマイナスの電荷をもつことです。この時「クロムさんと犬たち」はどうなるのか見てみましょう。
- クロムさんが犬たちを連れてゴミゴミと混雑した場所(=電解液の中)に行くと、周りのいろいろな刺激で、犬がくわえているホネ(=電子)を落としてしまいます。場所によっては泥棒がいて、犬からホネを盗んでいきます。
- また他の場所では「ホネ(=電子)集めが得意」な「酸素さん」が、多めに持っているホネで、不機嫌な犬たちを落ち着かせようとしてくれます。

このように、混雑した環境(=電解液の中)で、ホネ(=電子)を失くした犬たちの不機嫌な状態(=プラス電荷状態)や、ホネでなだめられている状態(=マイナス電荷状態)になることを「イオン化」と呼びます。どちらの状態も安定的ではなく、次の反応を起こしやすい状態と言えます。
何もなければ非常に安定している「クロムさんと犬たち」ですが、電解液の中のような刺激の多い環境に行くと、状態が変わることがわかりました。
クロムメッキのしくみ|エサ場のホネで「クロムさんと犬」が定着
「価」と「イオン化」のイメージができたので、次は「クロムメッキ」のしくみを理解しましょう。
先ほどの「イオン化」でホネを無くした「クロムさんと犬たち」が、一体どうなるのか見ていきます。
- 刺激の多い場所(=電解液の中)に突如「エサ場(=陰極の母材)」が登場します。(ここに電気を流すと)犬が大好きな新鮮なホネ(=電子)がたくさん並べられます。
- ホネ(=電子)を失って不機嫌な犬たち(=プラス電荷イオン)がいる場所ではもちろん、酸素イオンさんのホネで一時的に落ち着いていた犬たちも、エサ場のホネに惹かれます。どちらの場所でも、ホネを持っていない犬たちは、エサ場のホネをガッチリとくわえて、その場所で落ち着きます。(=析出)
つまり、電極に電気を流す → 犬たちがホネを受け取る → その場に定着する(=金属クロムとして析出)という流れです。
クロムメッキは、「ホネを通じてクロムさんと犬を落ち着かせ、その場に定着させる」ことで金属のコーティングを実現しています。

クロムメッキと安全性|環境規制と関連法令

三価クロムと六価クロムという言葉を耳にしても、「どちらが危険性が高いのか」「実際どう使い分けるべきか」と疑問に思う方も多いはずです。
ここではそれぞれの違いを、もう一度たとえ話で理解を深めながら、環境規制と関連法令、そしてクロムメッキがなぜ安全なのかまでご紹介します。
三価クロムと六価クロムの違いは、「犬の数」と「荒れ具合」
前の章でも登場した「クロムさんと犬」のたとえを使って、三価クロムと六価クロムの違いをもう少し詳しく見てみましょう。
- 三価クロムは、ホネ(=電子)を奪われて不機嫌になった犬を3匹連れたクロムさんです。犬たちは少し荒れてはいますが、クロムさんがリードでしっかりと落ち着かせています。
- 一方、六価クロムは、ホネを奪われた犬を6匹も引き連れています。犬たちはみな不機嫌で、どこに飛びかかるかわかりません。「酸素さん」が、持っている余分なホネ(=電子)で、犬たちをなだめようとしていますが、完全にはホネを渡さないので、犬たちは荒れた状態のままです。
この「荒れた犬の数の違い」が、三価と六価の大きな差です。荒れた犬が多い六価クロムは、化学的に反応しやすく、人体に対して刺激性や有害性を持つことがあります。
※三価クロムと六価クロムの違いについて詳しい内容は、『【いまさら聞けない】3価クロムと6価クロムの違い|メッキライブラリ』でご覧いただけます。

六価クロムはなぜ規制されているのか?
六価クロムが規制されている最大の理由は、その強い酸化作用と高い毒性にあります。
たとえで言うなら、ホネを奪われた6匹の犬たちはイライラがピークの状態。しかもこの犬たちは、自分のリードを引きちぎって、周囲に噛みついてしまうほど攻撃的です。特に体の中に入ってしまうと、細胞の中で暴れまわって、大事なDNAを傷つけてしまいます。これが、発がん性があるとされる理由です。
その結果、「六価クロム電解液」は、取り扱いに厳しい規制が設けられました。
※六価クロムの有害性に関する詳しい内容は、『~六価クロムメッキについて~|メッキライブラリ』でご覧いただけます。
クロムメッキは安全です!理由を解説
「六価クロムは危険」と聞くと、「では六価クロムで作ったメッキは大丈夫なのか」と心配する方もいるかもしれません。ただし、正しく処理されたクロムメッキ製品は安全に使用できます。
理由は、メッキされた金属の表面に存在するのは、すでに安定化した「金属クロム」だからです。
つまり、製品として使われているメッキ表面には、六価クロムのように暴れ回る犬はいません。落ち着いて定着している状態なので、肌に触れても安全です。また安定した金属クロムは、化学処理をしなければ六価クロムや三価クロムに自然に戻ることはありません。
ただし、欧州ではクロムメッキ製品が安全であったとしても六価クロム電解液で作った製品にも規制をかけています。次の章ではその規制について説明します。
環境規制と関連法令
EU(ヨーロッパ連合)ではRoHS指令(電気・電子機器への有害物質制限指令)により、六価クロムの使用とそれによって作られたメッキ製品の使用が制限されています。メッキ製品の安全性はこれまでに説明した通りですが、ヨーロッパでは規制されているため輸出する場合は注意が必要です。
一方、日本国内では電解液の管理と廃棄について、労働安全衛生法や水質汚濁防止法などで規制が設けられています。六価クロム処理を行う現場では、作業員の防護措置や排水処理などが義務として定められています。
※RoHS指令の詳しい内容は『【不使用証明書の提出】RoHS指令とは|メッキライブラリ』でご覧いただけます。
三価クロムは比較的安全とされ、代替としての利用も進んでいます。ですが、見た目や耐食性などの違いから、六価クロムが必要とされる場面も少なくありません。
大切なのは、正しく取り扱うこと。法令に基づいた適切な管理を行えば、どちらのクロムメッキも安心して使うことができます。
三和鍍金では、クロムに関して以下の表面処理が提供可能です。すべての処理について適切な管理と十分な洗浄を行っていますので、ニーズに合わせた処理方法を安心してご利用いただけます。
処理名 | 電解液の種類 | 環境規制 |
装飾クロムメッキ | 六価クロム | なし |
硬質クロムメッキ | 六価クロム | なし |
三価クロムメッキ | 三価クロム | なし |
サチライトクロムメッキ | 六価クロム | なし |
三価クロメート(亜鉛メッキ) | 三価クロム | なし |
六価クロメート(亜鉛メッキ) | 六価クロム | あり |
アロジン処理 | 六価クロム | あり |
三価アロジン処理 | 三価クロム | なし |
三和鍍金ならどちらのクロムメッキにも対応できます
今回は「価」とそれにまつわる内容を「犬とホネ」のたとえを使って解説しました。まとめると以下のとおりです。
- 「価」とは、元素(=クロムさんと犬)がどれだけ電子(=ホネ)を失ったかを表す数字
- イオン化とは、電解液のような刺激の多い場所で、電子(=ホネ)を失ったり得たりして、次の反応を起こしやすい状態になること
- 母材(=エサ場)で電子(=ホネ)を与えられ落ち着くことで、クロムが金属として定着するのが、クロムメッキのしくみ
- 三価クロムは電子(=ホネ)を3個、六価クロムは6個失った状態で、六価クロムは非常に強い酸化作用がある(=犬が暴れている)
- 三価クロム電解液は安全で環境規制対象外だが、六価クロム電解液は規制に応じた管理が必要
- 六価クロム電解液で作っても、金属化したクロムは安全性に問題はない(ただし欧州では規制の対象となるため注意が必要)
三価クロムや六価クロムによるメッキには、それぞれ異なる性質やメリットがあります。大切なのは、それらの違いを理解し、用途や目的に応じて最適な処理を選ぶことです。
三和鍍金では、装飾クロム・硬質クロムなど、あらゆるニーズに対応できる豊富なノウハウと設備を備えています。もちろん、環境規制や安全管理にも万全を期しており、RoHS対応の三価クロム処理もご用意しています。
「どちらを選べばいいかわからない」「顧客の仕様に合う処理を知りたい」そんなときは、弊社の経験豊富な担当者が、最適なご提案をいたしますので、お気軽にお問い合わせください!
執筆者プロフィール

- 金属表面処理の様々な疑問・基礎知識や、創業から70年以上培ってきたノウハウについて「誰にでもわかりやすく」をモットーに執筆しています。
最新の投稿
- 2025.5.17環境・SDGs三価クロムや六価クロムの「価」ってなに?
- 2025.4.15銅・ニッケル・クロムメッキ金属の表面硬化処理9選|【目的別】処理選択時のポイントも紹介
- 2025.3.20銅・ニッケル・クロムメッキハルセル試験とは?基礎から注意点4つを徹底解説
- 2024.6.6基礎知識ステンレスの溶接焼けを除去する方法5選