【疑問】ステンレスを黒くするにはどうしたらいいの?
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※2022年7月に追記いたしました。
こんにちは。
群馬県高崎市にて表面処理を行っております、(株)三和鍍金と申します。
本コラムは事業統括部の柳沢が解説いたします。
さて、最近よくいただくお問い合わせに「ステンレスを黒くしたいが、どうしたらいいか」というものがあります。
ご存じの通り、表面処理と呼ばれるものは無数に存在しており、且つその様相はあまり明らかにされていないものも多く、その中から何を選べばいいのかわからないというのは至極真っ当なお悩みかと思います。
そんなお客様のニーズに応えるべく、私なりにステンレスを黒くするための選択肢をまとめてみました。
ご参考までにご覧ください。
※こちらは黒皮を除去する酸洗いの動画です。是非見てみてください。
目次
ステンレスを黒くする方法
ステンレスを黒くする目的は様々かと思いますが、多くは意匠性かと推測します。
金属のギラギラとした光沢感を抑え、シックな見た目にして落ち着いた印象を持たせたい。
あるいは医療現場や撮影機器などで、金属の反射が困るために色をつけたいという目的もあるでしょう。
いずれにせよ、見た目のステンレスらしさをある意味薄れさせる必要があります。
かつ耐食性があればなお良しという場合も多いかもしれません。
選択肢① 塗装
まず一つ目が塗装です。
色をつける目的であれば、一番ポピュラーと言っても過言ではない表面処理ですね。
黒だけではなく様々な色をつけることができます。
焼付塗装はもちろん、弊社でも行っているカチオン塗装によってもステンレスを黒くすることが可能です。
膜厚が他の表面処理よりも比較的厚く、カチオン塗装や溶剤塗装であれば20μ前後、粉体塗装であれば50μ前後ほどになりますので、耐食性にも優れています。
艶のあり・なしの選択も可能ですし、塗装における黒色の色味はマンセル値というもので管理することができるため、黒色のバリエーションにも富んでいます。
比較的安価なことも特徴です。
選択肢② 亜鉛メッキ(黒クロメート)
二つ目が亜鉛メッキ+黒クロメートという選択肢です。
言わずと知れた防錆処理である亜鉛メッキは、その色調調整や更なる防錆を目的としてクロメート処理という化成処理と基本的にセットで扱われます。
※クロメートについてはこちらの記事をご参照ください。
クロメートの皮膜は様々な色がありますが、その中に黒色もございます。
塗装のようにマンセル値を以て黒色の中から色味を選ぶことはできませんが、耐食性とコスト面においては塗装に匹敵します。
ただ、平板形状など、表面積の大きな部品については色ムラが発生する可能性が高いため、注意が必要となります。
クロメート皮膜は薄いため、真っ黒というよりは少し透けたように見える場合があります。
ちなみに亜鉛メッキ+クロメートの具体的な膜厚としては通常およそ8μ前後ですが、その内訳としてはほとんどが亜鉛メッキで、クロメート皮膜の膜厚は0.2μ前後とされています。
2/10000mmですから、クロメート皮膜のみで考えると非常に薄いことがわかりますね。
選択肢③ 黒染め
三つ目が黒染めになります。
意図的に四三酸化鉄皮膜(酸化皮膜)をつけることでステンレス表面を黒く見せる処理です。
※黒染めについてはこちらの記事をご参照ください。
※酸化皮膜についてはこちらの記事をご覧ください。
酸化皮膜の膜厚は非常に薄いため真っ黒な見た目にはならず、素地の質感を反映したような見た目になります。
ヘアライン等の仕上げを施した製品はヘアラインの目を残したまま黒く見せることができるため、「生地状態を隠さずに見た目を黒く見せたい…」という製品には黒染めが適していると言えるでしょう。
膜厚も薄く耐食性としてはそこまで高くないため、室内使用がおすすめです。
具体的な膜厚としては1μ前後と言われていたり、寸法にほとんど変化が出ないことから、公差などが厳しい製品に用いられることもしばしばございます。
また塗装やメッキと異なり、皮膜はステンレス成分そのままとなりますので、食品衛生法にも適合した処理として知られています。
選択肢④ 酸化発色
四つ目の選択肢が酸化発色です。
あまり聞いたことがないという人も多いかもしれません。
ステンレスに透明の酸化皮膜を人工的につくり、その干渉作用で発色させます。
こちらもステンレスの酸化皮膜に何かを足しているのではないので、食品関係や医療関係にも安心して使用することができます。
皮膜の厚みは黒染めと同程度(1μほど)のため、こちらも公差が気になる精度の高い製品に用いることが可能です。
発色というだけあって、カラーリングも黒以外に豊富で、どれもかなり鮮やかで綺麗な仕上がりになります。
ネックは価格と調色の面で、需要と供給のバランスの関係でコストは他の処理より比較的高く、また色味は干渉色のため、細かな色彩の調整はできません。
たとえば赤と一口に言っても様々な赤があるかと思いますが、酸化発色の赤は調色するわけではありませんので、どちらかといえばマゼンタと言えるようなシックな赤になります。
塗装やカラーアルマイトで想起されるような真っ赤でビビットな赤とは違うため、発注の際は注意が必要です。
選択肢⑤ 黒無電解ニッケルメッキ
五つ目の選択肢が黒無電解ニッケルメッキです。
こちらの処理の売りは耐食性と耐熱性、硬さで、ニッケルの高耐食はもちろん、熱に関しても300℃くらいまでなら問題なくご使用いただけます。
硬さについてもベーキング処理という熱処理を後加工で加えることで、900HVほどという硬質クロムメッキに匹敵する硬さを誇るようになります。
また、電気を使わないため皮膜の均一性が高く、複雑な形状でも比較的均一な膜厚となります。
こうしてみると非常に利点の多い黒無電解ニッケルメッキですが、溶液の管理が非常に難しく、
また、皮膜の析出(せきしゅつ:だんだんと生成されること)に時間がかかり薬品単価も比較的高額なため、
処理単価が他の表面処理と比較してかなり高くなりがちです。
高価な反面、多機能で優秀な機能メッキと言えるでしょう。
見た目と性能どちらも欲しい!という場合はこちらをお勧めいたします。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回はステンレスを黒くする方法ということについてご紹介しました。
こちらの選択肢は全て弊社にて取り扱っておりますので、ご希望のお客様は是非ご相談ください。
数量は1ヶから対応可能です。
YouTubeなどにも様々なメッキの情報を載せておりますので、そちらも是非ご覧いただければと思います。
三和鍍金公式YouTubeチャンネルはこちら
それではまた次回!
おまけ~黒皮と黒染めの違い~
最後に少しおまけです。
ここまで読んでいただいた方の中には、黒皮と黒染めの皮膜って同じじゃない…?と疑問に思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
結論としては、ほぼ同じです。
いわゆる黒皮材の黒皮(四三酸化鉄皮膜)というのは副産物のようなもので、それを生成する目的で加工を行うわけではありません。
熱間圧延加工と呼ばれる加工で熱をかけながら金属をぐにーっと延ばすのですが、この後金属が冷める時に発生する黒錆を黒皮と呼んでいます。
したがって精度があまり良くなく、表面が凹凸していますが、一方黒染めについては黒皮をつけるための表面処理ですので、皮膜自体緻密で精度が高いとされています。
どちらも同じものですが、黒皮として正常に機能させられることを目的とするのであれば、きちんと黒染め処理を行った方が良いということになります。
皆さんの身の回りにも、これとこれ呼び名は違うけど実は同じものなの!?ということが結構隠れているかもしれませんね。
執筆者プロフィール
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新卒として入社後、現場での業務経験を活かし現在は営業として活動しながらコラムを執筆。塾講師・家庭教師の経歴から、「誰よりもわかりやすい解説」を志している。
また、多数の人気コラムを生み出すだけでなく、YouTubeの元編集者・現プレスリリース執筆者。コラム・YouTube・広告等のプロモーションを手掛けた本HPは流入ユーザー数前年比1,150%アップという偉業を達成した。
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