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2025/08/22

イオン化傾向とは?メッキ防食の2大原理と選定の2つの視点

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  • 更新日:

「イオン化傾向がメッキに関係あるとは聞くけれど、具体的にどういうこと?」
そんな疑問をお持ちではありませんか?

実は、イオン化傾向を理解することで、メッキの防食メカニズムが明確になり、適切なメッキ選定ができるようになります。


この記事では、イオン化傾向の基本から犠牲防食・バリア保護の仕組み、そして実践的なメッキ選定の視点まで分かりやすく解説します。

三和鍍金では防食メッキを含む50種類以上の表面処理を手掛けております。

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YouTube動画でも「錆びやすい金属と錆びにくい金属の違い」を解説していますので、ぜひご覧ください。

イオン化傾向を理解するための3つのポイント

イオン化傾向の基本を理解するには、以下の3つのポイントを押さえることが重要です。

  • イオン化傾向の概要
  • イオン化列
  • なぜイオン化傾向が大きいと錆びやすいか

これらのポイントを理解することで、金属の錆びイオン化傾向の関係について把握しやすくなります。まずは、この重要な概念を掴んでいきましょう。

ポイント1:そもそもイオン化傾向とは?

イオン化傾向とは、原子が電子を失って陽イオンになりやすい性質のことで、メッキでは主に金属のイオン化傾向を指しており、金属の種類でこの性質の強さが異なります。

これは、金属が電子を失うのに必要なエネルギー(イオン化エネルギー)が金属ごとに異なるためです。イオン化エネルギーが小さい金属ほど、少ないエネルギーで電子を手放すことができるため、イオンになりやすくなります。

また、金属の電子を失って酸化される現象なので、電子を手放しやすい金属ほど錆びやすいということになります。

イオン化に関する解説は、『三価クロムや六価クロムの「価」ってなに?』の記事でもご覧いただけます。

ポイント2:金属の錆びやすさランキング「イオン化列」

イオン化傾向の大きい順に金属を並べたものを「イオン化列」と呼びます。この序列を見れば、金属同士を比較して、どちらがよりイオンになりやすい=錆びやすい)かを一目で判断できます。

以下に代表的な金属のイオン化列を示しました。左側の金属ほどイオン化傾向が大きく、右側へ進むにつれてその傾向は小さくなります。

【金属のイオン化列】

大(錆びやすい)「イオン化傾向」小(錆びにくい)
K, Ca, Na, Mg, Al, Zn, Fe(鉄), Ni, Sn, Pb, (H:水素), Cu, Ag, Pt, Au

次に、このイオン化列をもとに、イオン化傾向と錆びやすさの関係について詳しく見ていきましょう。

ポイント3:なぜイオン化傾向が大きいと錆びやすい?

イオン化傾向が大きい金属が錆びやすいのは、その金属が積極的に電子を失い、空気や水の中にある酸素と結びつき、「酸化」されるためです。

つまり、イオン化傾向が大きい(=電子を失いやすい)ことと、酸化されやすい(=錆びやすい)ことは、ほぼ同じ意味を持っているのです。

例えば、イオン化列で鉄(Fe)より左にある亜鉛(Zn)は、鉄よりも電子を失いやすいため、より錆びやすい金属といえます。

このように、イオン化傾向と錆びやすさは密接に関係しています。

金属の錆びやすさに関する詳しい解説は、『【簡単解説】錆びやすい金属、錆びにくい金属』の記事でもご覧いただけます。

「イオン化傾向で読み解く」メッキの2大防食

ここでは鉄を母材としたケースで、鉄より酸化しやすい金属でメッキをする方法「犠牲防食」と、鉄より錆びにくい金属でメッキをする方法「バリア保護」、それぞれの仕組みと特徴を理解しましょう。

犠牲防食 ~ 鉄の代わりに酸化されて守る

犠牲防食とは、保護したい金属(例:)よりもイオン化傾向が大きい金属(例:亜鉛)でメッキを行い、メッキ皮膜が「犠牲」になって優先的に酸化されることで母材の鉄を守る防食方法です。

鉄と亜鉛が接触している状態では、イオン化傾向が大きい亜鉛が優先的に電子を放出して酸化します。酸化亜鉛の被膜は鉄への酸素の接触を遮ることで、鉄の酸化を防ぐ働きをします。

この原理を利用した最も代表的な例が、亜鉛メッキを施した「トタン」です。トタンは表面に傷がついても、傷周辺の亜鉛よりも先に酸化されてを保護し続けます。そのため、工事現場の仮囲いや屋外の建材など、傷がつきやすい環境で広く利用されています。

バリア保護 ~ 鉄より酸化されにくい金属で覆う

バリア保護とは、保護したい金属(例:)よりもイオン化傾向が小さい、つまり酸化されにくい金属(例:スズニッケル)で表面を完全に覆い、酸化の原因となる酸素から遮断して防食する方法です。メッキ皮膜自体が非常に安定しているため、緻密にメッキされていれば、長期間にわたって母材を腐食から守ることができます

この原理を利用した代表例が、スズメッキを施した「ブリキ」です。スズ安全性が高く耐食性も良いため、ジュースの缶や缶詰などに利用されています。

ただし、この方法には弱点も存在します。皮膜に傷がついて鉄が露出した場合イオン化傾向の小さいスズよりも、の方が優先的に酸化され、腐食が内部で急速に進行します。

防食メッキ選びで失敗しないための2つの視点

現場では、基礎知識を基に、実際に「どのメッキが最適か」を判断する力が必要になります。製品の使用環境や想定されるリスクを考慮し、以下の2つの視点でメッキを選定することで、最適な判断ができるようになります。

視点1:傷のリスクで考える「犠牲防食」と「バリア保護」の使い分け

メッキを選ぶ上で重要な判断基準の一つが、「製品に傷がつくリスクがどれだけあるか」です。このリスクの大小によって、犠牲防食バリア保護のどちらが適しているかが決まります。

バリア保護(スズメッキ等)は傷に弱く、一度皮膜が破れると母材の酸化が進む危険性があります。一方、犠牲防食(亜鉛メッキ等)は皮膜に傷がついても防食効果が持続するため、傷がつきやすい環境により適しています。

例えば、工具で締め付けられるボルトには犠牲防食、傷のリスクが低い屋内の装飾品にはバリア保護、というように使い分けるのが基本です。

視点2:使用環境とコストから最適なメッキを選ぶ

傷のリスクに加えて、「どのような環境で使われるか」と「コスト」も、メッキを選定する上で欠かせない視点です。メッキの種類によって、得意な環境や単価は大きく異なります。耐食性だけを追求して過剰な性能のメッキを選ぶと、不要なコスト増につながります。

使用環境塩分濃度温度・湿度化学物質の有無、さらには装飾性の要求レベルなど、これらの条件をまず整理します。その上で、各条件を満たすメッキの中から、製品に求められる品質とコストのバランスが最も良いものを選択することが合理的です。

弊社、株式会社三和鍍金では、使用環境に応じた詳しいご相談を承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

まとめ:「イオン化傾向」を理解して防食メッキに役立てましょう

今回はイオン化傾向の基本から、メッキの防食原理と選び方まで解説しました。最後に、この記事の要点を5つにまとめます。

  • イオン化傾向とは、物質が電子を失い陽イオンになりやすい性質のこと
  • イオン化傾向が大きい金属ほど、「酸化されやすい」
  • 「犠牲防食」は、母材より酸化しやすい金属でメッキし、優先的に酸化されて母材を守る
  • 「バリア保護」は、母材より酸化しにくい金属でメッキし、酸素を遮断して母材を守る
  • 防食メッキ選びは、傷のリスク使用環境コスト総合的に判断することが重要

今回の内容を、ぜひ現場での材料選定品質管理にお役立てください。

弊社、株式会社三和鍍金は、創業から70年以上表面処理に携わり、製品や部品の品質向上に貢献してまいりました。

防食メッキをはじめとする耐摩耗性表面処理のご相談に加え、その他表面処理や分析・試験にも対応しております。ご検討の際には、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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